冬眠しないクマという言葉は、最近のニュースでよく聞くようになりました。
しかし、生物学的に見ると「冬眠しない=一年中まったく眠らないクマ」というよりも以下のような冬ごもりパターンが崩れているクマを指すことが多いです。
- 冬眠に入りそびれたクマ(=穴持たず)
- 冬眠期間が短くなったクマ
- 冬眠中なのに何度も巣穴から出入りするクマ
この記事では冬眠しないクマがなぜ生まれるのか、どんな危険があるのかについて解説します。
冬眠とは
日本のヒグマとツキノワグマは、冬になると冬ごもりと呼ばれる冬眠状態に入ります。
- 期 間
- ヒグマ:12月〜4月ごろまでおよそ4〜5か月
- ツキノワグマ:地域により差があり、寒い地域で3〜4か月、暖かい西日本では1〜2か月ほどしか冬ごもりしない例もある
- 体の変化
- 体温:普段は37〜39℃ → 冬眠中は31〜35℃に低下
- 呼吸・心拍:ゆっくりになり、エネルギー消費を大きく減らす
ぐっすり眠って一度も起きないというイメージがありますが、実際には浅い眠りと覚醒をくり返しながら、巣穴の中でじっと過ごしていることがわかっています。
環境省の資料でもクマは秋にドングリなどを集中的に食べて脂肪を蓄え、冬は巣穴で過ごすライフサイクルを基本としていると説明されています。
冬眠しないクマ
ニュースで冬眠しないクマと呼ばれているのは、主に次の3パターンです。
穴持たずのクマ
秋に十分な栄養をとれず、冬眠することなく活動し続けるクマは穴持たずのクマと呼ばれます。
穴持たずとは、冬眠用の穴(巣穴)を持たないという意味です。
- 原因
- 秋のドングリや木の実が不作でエサが足りない
- 結果
- 脂肪が足りず、長期の冬眠に耐えられない
- 雪の中でもエサを求めて山から出て人里をうろつく
穴持たずのクマは空腹と恐怖心から人を襲う危険が高いと言われています。
冬眠期間が極端に短いクマ
一方で完全に冬眠ゼロではなくても以下のようなクマは冬眠しないと言われることがあります。
- 冬眠に入るのが遅い
- すぐに起きて動き始める
- 雪の上を歩き回る様子が観察される
北里大学の研究では雪の上を歩くツキノワグマの映像が紹介されており、冬眠期間を短縮したり、冬眠しないクマがいることが明らかになっています。
また近年、ツキノワグマの冬眠期間が短縮している傾向があるという報告があります。
原因としては、地球温暖化やエサ資源の変動が背景にある可能性が指摘されています。
暖かい地域に住むクマ
西日本など積雪が少なく冬でも比較的暖かい地域では、ツキノワグマの冬ごもり期間自体がもともと短く、1〜2か月ほどしか巣穴に入らない場合もあります。
そのため、そうした地域では冬でもクマが目撃されることはあります。
しかし、その地域では以前からクマが冬に活動することが珍しくないので、冬眠のイメージが当てはまらないということがあります。
クマ出没のニュース
2023年12月、札幌市では冬眠しないクマをドローンで追跡する試みが行われました。
12月に入ってもクマの出没が相次ぎ、冬眠時期のはずなのに活動していると報じられました。
2025年11月には、北海道北部の苫前町で体長約2m、体重約400kgのヒグマが捕獲され「冬眠しないヒグマ=穴持たずは本当に増えているのか?」というニュースも話題になりました。
北海道文化放送の報道では、12月の岩見沢市の住宅街でクマのような動物が目撃され「師走なのに冬眠遅れ?穴持たずの可能性も」として警戒が呼びかけられました。
東北地方では雪の中でクマが人里に出没し、住宅に居座るなどの事例がニュースになっています。
近畿地方でも三重県などで12月、1月のクマ目撃情報があり、「このあたりは雪山ではなく比較的暖かいので、冬眠しないクマも想定して対策している」と地元関係者がコメントしています。
冬眠しないクマが増えている理由
地球温暖化による冬の気温上昇
冬の最低気温が1℃上昇するごとに、クマの冬眠期間が約6日短くなるという研究結果があります。
- 冬がそれほど寒くならない
- 雪が遅く降る、あるいは積もらない
- 巣穴の中でも体温をあまり下げなくて良い
こうした状態では「わざわざ長く眠るより、外に出てエサを探したほうが得だ」という方向にクマの行動が変わってしまう可能性があります。
環境研究者による最新の研究でも地球温暖化がクマの冬眠期間の短縮や出没増加と関係していることが指摘されています。
木の実が不作
クマは秋にドングリやブナの実など高カロリーの木の実を大量に食べ、脂肪をためてから冬眠に入ります。
しかし近年、猛暑や長雨によるドングリの不作、山林管理の変化による植生の変化などが重なり、クマが必要な脂肪を貯めきれない年が増えています。
十分な脂肪が無いと長期の冬眠は命がけです。
そのため、冬眠に入りそびれて雪の中でもエサを探し続ける穴持たずのクマが増えていると考えられています。
人間の生活圏にあるエサ
環境省の資料などでは、人間由来のエサ(生ゴミ・残飯・ペットフード・放置された果樹など)にクマが慣れる危険性が繰り返し指摘されています。
- 家の周りの生ゴミ
- 畑の作物
- 放置された柿の木や果樹園
このような楽に手に入るエサがあると、クマは冬でも食べ物に困りません。
その結果「山に戻って冬眠するより、人里で食べ続けた方が楽」と学習してしまうクマが出てきます。
クマが人里のエサを求めて行動するようになり、冬眠の習性そのものが崩れるリスクが指摘されています。
里山の管理放棄と人口減少
かつて人が里山を手入れしていた時代には、クマが人里に近づくことは多くありませんでした。
現在は過疎化や高齢化で里山管理が減り、クマが人里にまで出やすい環境になっています。
- 田畑の放棄 → 実のなる木や竹林が増加
- 人の気配が薄い → クマが安心して近づける
こうした社会的な変化も、冬でも人里で活動するクマを増やす要因になっています。
冬眠しないクマによるリスク
遭遇するリスクが高まる
本来であれば冬の間は山に入らなければクマに会いにくい時期でした。
しかし、冬眠しない熊が増えると、以下のような場面や場所で真冬にクマと遭遇するリスクが出てきます。
- スキー・スノーボード、冬山登山
- 冬でも行う山菜・薪採り
- 住宅地の近く(裏山や河川敷など)
攻撃性が高まる
穴持たずのクマは十分な脂肪を貯えられず、強い空腹と寒さのストレスにさらされ続けます。
穴持たずのクマは空腹と恐怖心から人を襲う危険が高いとされています。
また、エサ不足と猛暑が重なった年には、冬でもクマの出没や人身被害が増えているという調査があります。
人の食べ物に慣れたクマ
一度「人間の食べ物は美味しくて安全」と学んだクマは、人を避けなくなり、執拗に人里へ現れるようになります。
そのような熊は、ゴミ置き場やキャンプ場、畑・果樹園を狙って繰り返し現れるようになり、最終的には駆除以外の選択肢が無くなってしまいます。
冬眠しないクマ対策
最後に冬眠しないクマが増えつつある今、私たちに何ができるかについて簡単に整理します。
エサを与えない
- 生ゴミはしっかりとフタの閉まる容器に変える
- 家の周りの落ちた果実・ペットフードを放置しない
- キャンプや登山で出たゴミは持ち帰る
里山の手入れ
- 放置された果樹園や畑の整理
- 地域でのクマ出没情報の共有
- クマ出没マップや自治体からのメール配信をチェック
環境省では地域全体でクマの生態を理解し、対策を共有することの重要性を強調しています。
冬でも出るものとしての心構え
- 冬山でも熊鈴やクマスプレーなどを持つ
- 自治体や観光協会が冬でもクマ対策グッズの貸し出しを行っている例もある
冬だから大丈夫と思い込まず、「クマは一年中どこかで起きているかもしれない」という前提で山に入ることが、これからの時代の新しい常識になりつつあります。

